サッカーとハート :向上心の妨げ2010-09-22

オフサイド?

先日、ある試合を見た時の話である。

その試合でスポーツのみならず様々な実社会の場面でも見かけるある様相を見た。それを評してこの表題となった。

その試合は結果的に見れば大変荒れて試合中にも試合後に退場者が出た。試合の様子をお話しするには切りが無い。時系列を隈なく追ってもその場のニュアンスはうまく伝わらないであろう。“ある様相”の場面の話だけしよう。

それは相手ペナルティエリア20m(ゴールまで35~36m)位のところで縦パスを受けようとした選手がオフサイドオフサイドの判定を受けそうな場面のことである。縦パスは結果的にその縦へ走り込んだ選手に寸前で通らなかった。明らかにその選手は故意にボールに関わろうとしていたし副審はバタバタと音を鳴らしオフサイドシグナルを上げていた。私が見た限りではパスが放たれた瞬間にオフサイドポジションに選手がいたのは間違いなく、しかもその局面は1対1の状況でありディフェンダーにとっては少々不利な体勢で際どい瞬間だったのは間違いない。オフサイドの判定が下されてもおかしくない状況だった。しかしオフサイドにはならずゲームは流れていた。

実はこのプレーは副審がいるサイドとは逆のサイド(攻めているチームの左サイド、守っているチームにとっては右サイド)での出来事であり、主審は副審の旗(オフサイドシグナル)に気付いていなかった。どうだろう、時間にすれば4~5秒くらいだろうか・・・、しかし4~5秒はサッカーの試合ではかなり長い時間と言える。副審は旗を振り続け主審が気付くまで下ろそうとはしなかった。ところがゲームは停められることはなく流れ続け、間の悪いことにそのままボールを奪ったチームが数秒後に得点を決めてしまったのである。ゲームが流れ続けるのを見て旗を上げていた副審は5秒後にはゲームに戻り新たなオフサイドラインのキープに努め正しいポジションに付き直していた。

失点したチームは収まらない。「さっきオフサイドの旗が上がってたやんか!」「なんでオフサイドをとらへんねん(怒)」「副審、旗上げたままじっとしといてよ。(泣)」と審判団に詰め寄りこそはしないものの抗議にも泣きにも聞こえるセリフを吐いていた。

こういった場面はひょっとしたらサッカーの試合、身近にありがちな話ではないだろうか?

根本は?

この時、問題なのは

  • オフサイドシグナルが上がったことを主審が気付いていたかどうか?
  • 主審が副審の旗シグナルに気付いていた場合シグナルを降ろせとか“アドバンテージ”といった指示を副審や選手達に行ったかどうか?
  • もう一つ言えば選手たちがルールをきちんと理解していたかどうか?

が問題となる。

おそらくオフサイドポジションにいた選手にパスが渡らなかった・・・という際どい状況が場面を複雑にしているのだろうがディフェンスがカットして味方にパスを繋げることに成功すれば敢えてオフサイドは取らずゲームを流す・・・といった判定も悪くはないと思われる。しかし攻めていたチームにしてみればカットされた場面が失点にまでたどり着いてしまったのだから“オフサイドを取ってもらった方が良かった”という気持ちも解らなくもない。

まあ、状況はこんな場面だったのだが実はこの後が本題だ。ゴールネットを揺らした直後、得点を認める前に選手の抗議の声を聞いた主審は副審の所に行き確認作業を行っている。大変良いことだ。

主審:「オフサイドだった?」

と尋ね確認をしていたのだから。これははっきり聞こえた。

しかしだ、副審はおそらくこのような事を言ったのだろう・・・

副審:「オフサイドポジションに選手はいたがボールは直接には渡らずインターセプトされたから一旦は旗を上げたものの次の場面に合わせ切り替えた。」

と。

主審:「私はあえてアドバンテージを採用した。オフサイドポジションに選手がいたのは見えてたから・・・」

と返した。

しかし、私が見るに明らかに逆サイドでの出来事を見落としていたはずである。なぜなら主審はその瞬間首を全く振ることもなくボールばかり見ていた。いわゆるボールウォッチャーだ。ましてや副審の方を一度も見ることはない。だから選手にアドバンテージのシグナルもしなければ副審に旗を降ろせの合図もしなかったのだから。

しかし前述のセリフが出てくるのである・・・。

もちろん私もその人本人ではないので本当の本当の心の中はわからない。私が分かっていないだけで主審はほんの瞬間に副審を見ていたのかもしれない。オフサイドにかかりそうな選手の状況を見極めアドバンテージを採用したのかもしれない。逆サイドで「アドバンテージ!!」と声を出していたのかもしれない。しかし結果的にゲームは荒れて大変だった。試合中にもみ合うことしばしば・・・主審にも相手選手にも暴言連発、しかしイエローカードも注意も無し。正直主審の技量に少々問題があったと言わざるを得ない状況でそのようなゲームコントロールが出来ていたとは思えない。

メッキは剥がれる

サッカーに限らず自分が今以上の向上を試みるものがあったとする。

向上とは“今”より前の自分を理解・分析しそれを超える努力をすること。それ無くしては有り得ない。以前の自分を分析しようとしない者、以前の自分に正直に向き合えない者にはそもそも今の“自分を理解”するスタートラインに立てないのであるから向上はあり得ない。ミスはミスで認める心、見ていなかったなら見ていなかったと言える心、偶々の状況に乗りかかり体裁よく場面を誤魔化さない心無くして有り得ない。もしその行為を止めたり出来事に向かいあえず誤魔化したらもうそこで進歩は終わる。

ここでは副審に確認し副審の判定を尊重し状況を顧みて「アドバンテージを採用した」としなければならない。「私も見ていて知っていた・・・」というセリフは余計である。主審と副審は協力して試合をコントロールするグループだから「副審さん、良く見ていてくれました。おかげできちんとルールに乗って判定できました。」といったニュアンスの言葉でまとめなければならない。調子良く「俺も気づいていたんだけどあえて流したんや・・・」と自分を正当化するようなセリフでその場の帳尻を合わせてはいけない・・・。

体裁を繕っても繕ったそこが基準になって後にも先にも進めなくなる。メッキはやがてはがれるのである。いつも自分に正直に向かい合う心。そう言った心を持ち合わせることがサッカーに限らず人の成長を促す一番の栄養ではないだろうか?

『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』

指導者として選手に対していつもこうありたいと思う。 しかし、学生リーグ前期最終戦で退席になった私はまだまだ未熟者・・・。